
量子コンピュータへの期待と現実
「人間の脳は、量子の法則を直感的に理解するようにできていない」。
量子コンピュータについては、以前、日経サイエンスの特集になっていたのを読んでからずっと気になっていたので、本書を買い求めた。量子の世界の不確実性という性質をキュウビットという形で利用し、莫大な情報量を同時に保持したり計算することを目指すのが、量子コンピュータである。著者は、「ニューヨークタイムズ」のサイエンスライター。わかりにくい量子コンピュータの概念を、読者に理解しやすい形で記述するために腐心した跡がうかがえる内容になっている。
量子コンピュータが注目されている理由、そもそもコンピュータとは何か、量子コンピュータの基礎になる量子に基本的なふるまいについての説明、現代のコンピュータ技術の限界と量子コンピュータによってそれがどうなるか、公開暗号カギ技術への脅威、量子コンピュータの技術は新たな暗号化技術としても応用可能なこと(むしろそちらの方が実用化は早いかもしれない)、NP完全と量子コンピュータ、といった内容である。エラー訂正の方法についても書かれてある。
一般向けに精一杯やさしく書いてあるし、数式もほとんど登場しない。その点で、確かに最適な入門書といえる。しかし、量子力学とITの少なくともどちらかについての一定の基礎知識がないと、本書の内容を十分理解するのは難しいかもしれない。
本書を読み終えて、個人的には、これはちょっと当面の間は実用化が難しそうだな、という感触を強く持った。ロルフ・ランダウアーの発言...
PR